今回ご登場いただくのは、兵庫県は城崎温泉にある「小林屋」。数奇屋造りの木造三階建てのお宿で、2015年に国の登録有形文化財に認定されました。お話をお聞きしたのは、若旦那の永本冬森(ともり)さんです。
アーティストの視点で見た城崎温泉
永本さんは、小林屋の若旦那であると同時に、画家としても活動されています。ボールペンによるドローイング作品を多く手がけておられ、各地の展覧会にも出展されています。
かつて、カナダのトロントで暮らしていた際のルームメイトが、以前城崎温泉の旅館で仲居をしており、そこで聞いた城崎温泉の魅力に惹かれ、自身も城崎温泉で活動することとなったそうです。ちょうど城崎国際アートセンター(※)が改装工事中だったため、小林屋に滞在して作品作りをしていたといい、そのときの交流が今につながっていると話されていました。
城崎の町はアーティストにとって創作活動に適した環境だと永本さんは言います。
「旅館で1人になると雑音が消え、考えを整理しアウトプットすることができます。そして、気分転換に外に出ると、人の往来が適度にあり、温泉につかって考えをクリアにすることもできます。そういった芸術家にとってよい環境が城崎温泉にはあり、創作活動を行う場としても適していると感じています。」
町全体でアーティストを迎え入れる城崎温泉は彼のアトリエ。永本さんはこの町で今日も作品作りに励みます。
※城崎国際アートセンター:舞台芸術を中心とした滞在型の創造活動の拠点で、舞台芸術の発表の場としてだけでなく、アーティストが城崎のまちに暮らすように長期滞在できるアートの拠点になっている。
写真中の、因州和紙を活用した行灯型の歓迎看板も永本さんのアイデアです。
伝統文化を残すということ
小林屋の客室の障子には鳥取県の伝統工芸品である「因州和紙」を使用しています。客室の一部に伝統陶芸品を使用することについて、永本さんは次のように語っています。
「近年は障子もメンテナンスのしやすいプラスチック和紙を使用することが多くなっているのですが、あえて維持にコストがかかる伝統工芸品を使用しているのは、お客様に日常の生活とは違う空間を提供したいという思いからです。畳と障子、木と紙に囲まれた昔ながらの伝統的な旅館ならではの空間で、和室のよさを感じ取っていただきたいです。」
また、床の間の壁には、城崎の伝統工芸品である「麦わら細工」の額が飾られており、因州和紙の障子とあわせ、伝統文化を活用し残していくという意思を感じ取ることができます。
郷愁を誘う場としての「おもてなし」
伝統工芸品を客室の一部に取り入れるなど、あえて現代的な部分を排除して昔ながらの伝統的なしつらえを大事にされているのは「昔の思い出を呼び覚ます場として心のふるさとになり得る場としたい」からと永本さんは話されます。
「木と紙に包まれて和室のよさを感じていただき、畳の上でぐっすりと寝ていただく。料理やお風呂と同じように部屋の雰囲気もおもてなしのひとつと捉えております。宿の考えが『しつらえ』にはそのまま反映されており、ここにしかないものとして大事にしていきたいです。」
温泉地の旅館ならではの情緒を感じていただけるような郷愁を誘う場を「残して」いきたいという永本さんの想いを感じました。
「小林屋」のルーツを未来に生かす
最後に永本さんは小林屋の未来の展望について次のように話してくれました。
「もともと小林屋の起源は『せとや』です。創業当時、瀬戸物商を生業としていた時代に作られた『器』が今も奥に眠っています。そこで、小林屋のルーツでもあるこの『器』を掘り起こし、今後活用していければと考えています。具体的には、そのような昔の器で会席料理を味わっていただくといった、『器』を使ったおもてなしを、今まで行ってきたおもてなしにプラスした取組みとして始めていきたいと考えています。」
昔からの伝統を未来に生かしていこうと取り組み始めている小林屋の今後に注目です。
〒669-6101 兵庫県豊岡市城崎町湯島369
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